掌編小説「Stardustを産む」 私、妊娠したみたい。 冬に産まれるの。予定日は、1月8日だって。 ジャストこの日に産まれたら、デヴィット・ボウイと同じバースディ! なんて素敵! 私のベイビーもきっと、偉大な音楽家になるに違いない。 だけど、もし1月7日に出てきちゃったら? ミッキーと同じ誕生日。あの、ろくでなしのうすら馬鹿と。 短気で、暴力的で、酒好きの甲斐性なし。 ブロンドの年増ダンサーと浮気して、そのダンナを病院送りにして、 今は刑務所暮らしのミッキー。最低最悪な男。 ああでも、おなかの子の父親はミッキー。 世界で一番愛しいベイビー。 なのに、あなたのパパは、 世界で一番嫌いなあの男。 ミッキーから手紙が来て、 「早く会いたいオレたちのベイビー、男の子なら名前はミッキーJr.と」 はんっ ばかじゃない? 破って、キッチンで燃やしてやったわ。 どうか予定日通り、1月8日に産まれますように。 ボウイのように美しくて才能ある男の子を。 ミッキーとは別れるわ。もう手紙も書かないし、受け取らない。 アパートも電話番号も変えて、二度と会わないつもり。 友だちのジュリーは「できるわけない」と、笑い飛ばすけれど 1月6日の夜、街は木枯らし。 一人で「ジギー・スターダスト」を聴いていた。 突然、どーんって、大きな波がやってきた。 最悪よ、陣痛が来たみたい。 もしかすると、7日に産まれるの? 1月7日、あの男と同じバースディ。 嫌だ、絶対に嫌。 私頑張るから、何時間でも痛みに耐えるから、 だからお願いベイビー、どうかあと1日待って。 ジュリーと彼氏のサムがやってきて、私を病院へ。 とにかく痛くて痛くて、何度も死にそうになった。 病院のベッドで、エビのように背中を丸めて 私は涙を流す。ミルキーウェイみたいに。 ドクターが近づいてきた。初めて見る先生。 一瞬、世界が止まったわ。 ああ神様、なんの罰ですか? ドクターはデヴィット・ボウイにうり二つ。 まるで、ロックスター。 ボウイ先生は「もうすぐ生まれるよ」と言ったけど、 私は涙が止まらなくなってしまった。ごめんね。 「どうしたの?」 ごめんね、ごめんね。 気づいたら私は何度も謝ってた。 ごめんねボウイ、ごめんねベイビー、 やっばり、予定日どおりにはいかないや。 「予定日なんて関係ないよ」 先生は笑う。 そうよね、 どんなふうに産まれてきても、 宇宙一愛してるよ、私のベイビー。 美しくなくてもいいよ。 音痴でもダンスが下手でもいいよ。 1月7日でいいよ。 大きな声で泣いてね、たくさん笑ってね、ベイビー、 私のベイビー、私たちの ミッキーJr そう、燃やしてしまったけど、 あの手紙のことは、ずっと覚えてた。 パパになったら、きっと真面目になるって。 パパになったら、もう二度と悪さはしないって。   ベイビーが誇れる父親になる。   愛してるよ。   たとえ、許してくれなくても、一生会ってくれなくても、   おまえとベイビーを見守ってるよ。 おきまりのクサイ言葉。信じられる? 何度も消して書き直した、汚れた便箋。 虫みたいに踊った字。 丸めては広げて、何度も何度も読み返したけれど… 信じたいって思ったけれど。 ごめんね、ミッキー。 燃やしちゃった。他の手紙も全部捨てちゃったよ。 もう外に出てるって耳にしたけれど、 今、なにしてる? 今、どこにいるのかな? デヴィット・ボウイはささやいた。 「愚かな子、かわいい子、  こんなときに、やっと気づくなんてね」 ねぇ先生、ミッキー、会いに来てくれるかな。 私たちの赤ちゃんに。 「愚問だね、ママになろうって人が。  会いにくるに決まってるさ」 信じていいかな?私、もう一度… 「保証するよ、信じてごらんよ」 じゃあね、ボウイ先生、ジュリーを呼んでくれる? 先生がいなくなって、入れ替わりにジュリーとサム。 「デヴィット・ボウイですって?」目を丸くするジュリー。 そんな先生いないよ。いつものジジイだよ。 痛くてたまらず幻でも見たんじゃない?って。 腰の骨がめりめりって音立てて、スパーク! ああ、いよいよみたい。いよいよ会える? 痛いよ。壊れそうだよ。 だけど、早く。 一刻も早く。1日も早く。 1月7日でよかったよ。パパと同じ日。 長いことごめんね。うそついてごめんね。 だけど今度こそ、 この戦争みたいな時間が終わったら、 もう一度だけ。