『COME(カム) BACK(バック)』 〜概要〜 試合に負けて引退した主人公・「力丸」と、勝って日本王者になった「一也」。 同じ階級の二人はジムメイトであり、ライバルであり、親友であった。 が、様々な経緯がありカムバックを目指す力丸を、一也は彼の家族を思うがゆえに一喝し突き放した。 険悪になる二人の関係。 負けた原因を究明し克服した力丸は、再起戦に勝利し、一也に宣戦布告した。 しかし、試合の勝因を与えてくれたのは一也だった。 試合後に妻にそのことを打ち明けられた力丸は、試合に勝つと同時にそれ以外の大切な 「もの」を得た。 短編ではあえて書く必要が無かったのですが、力丸の過去に触れておきたいと思います。 【過去】 元ヤクザの力丸はその世界では生きられなかったが、拳ひとつでのし上がれるボクシングに魅力を感じプロボクサーを目指す。 同期の一也はトントン拍子で勝ち上がり、日本ランキング入りを果たすが、力丸は生活の乱れもあって新人王戦でつまずいた。 一也は大学卒のエリート社員で、性格も優等生な模範ボクサーだった。 力丸はそんな一也に影響され、生活態度を一変させてボクシングに打ち込むようになった。 (強いボクサーになるためには、ボクシングに打ち込めるだけの生活環境を整えることが大事。試合の報酬だけで食べていけないボクサー事情なだけに、それ以外の仕事選びが重要になる) そんな頃、力丸は職場で知り合った女性と結婚して家庭を築くと、“世界チャンピオン”という夢に向かって更に練習に励むようになった。 力丸は“元ヤクザ”という過去があるからこそ、人生でもボクシングでも“同じ過ちを繰り返さない”という教訓を座右の銘として戦い続ける。 【序章】 後楽園ホール。 観客は6分の入り。 リング上では熱戦が繰り広げられていた。 字幕  ウエルター級8回戦 パワーファイターの「宮本力丸」(28)は、タイソンのような突進力でボクサータイプの「鈴木正次」をコーナーに追い詰めた。 TVの実況アナが、     「力丸は凄い突進力で、元日本ランカーの鈴木をコーナーに追い詰めたッ……」     「鈴木、ピンチ!!」 しかし、鈴木はコーナーを背にしてガードを堅め、微笑をもらした。 鈴木  (こっちへ来いョ……) 鈴木は力丸の右ストレートを、左に顔をずらして外した。 そして、懇親の力をこめた左フックを鈴木の顔面に……。 実況  「力丸の連打に、鈴木耐えられるか!?」 一瞬早く、鈴木の左フックがカウンターでアゴを捉えた。 実況  「鈴木のカウンターが、炸裂〜!!」 自分の足元に前のめりに崩れ落ちる力丸を見下しながら、 鈴木  「お前はカウンターを取りやすいんだよッ」 (スピードが無いことと、パンチの連打が遅いことが力丸の最大の欠点であったが、その意味を彼は後で悟った) リングサイドにはジムメイトの「出雲一也」(26)が渋い表情で、隣には(力丸の)妻の 「千津子」(32)が泣きながら見ていた。 カウンターやスピード・技術云々は一般読者は興味のないことですが、ボクシングでの失敗を人生に准(なぞら)えて、同じ過ちを繰り返さない事の大切さと、勝ち負け以外の人生における大事な何かを、表現してみました。 GLOVES(グローブス) IN(イン) MY(マイ) HEART(ハート) 『(「)COME(カム) BACK(バック)』(」) 赤コーナー・控え室。 椅子に座り、前屈みにうな垂れる力丸に声を掛ける一也。 力丸  「元日本ランカーの鈴木(ヤツ)を倒して、一気に上(日本タイトル)を目指すチャンスだったんだ……」 一也  「あれだけきれいにカウンターを貰ったら、誰だって倒れるさ」     「ウエルターのパンチだからな」 と励ますが、力丸に返す言葉は無かった。 力丸  「……」 一也はその場を去りながら、     「またすぐ練習来いョ、待ってるからな」 そして控え室のドアは閉められた。 その優しい言葉に、内心嬉しく思う力丸。 力丸  「ありがとう、一也」     「でも、この試合が最後なんだよ」 力丸が試合前に、妻と交わした約束。 回想シーン。 字幕  試合前 1LDKの白いコーポの一室に、妻・千津子と暮らす力丸。 2階に住んでいた。 台所で料理する千津子。 力丸はその後ろで(背中を向けて)ニコニコとTVを見ていた。 千津子 「あたし不安なの……」 口をポカンと開けて振り向く力丸。 千津子 「今のまんまじゃ子供も作れないしぃ」 TVの方に向き直って、意味深に微笑しながら、 力丸  「ボクシング辞めろってか」 千津子 「だってボクシングやってると仕事に専念できないでしょ」     「あなたの身体(からだ)も心配だし」 力丸  「ヘン、次負けたら引退してやるよ!」 千津子 「ホントーッ!?」 と、フライパンをガス代に置いたまま、体ごと向き直った。 力丸  「男に二言はねぇーよっ」 千津子 「じゃぁ、そしたら少しは出世できるよね?」 と、四つん這いになって力丸の側(そば)まで寄るその表情はニコニコ(^_^)。 釈然としない力丸は、     「ったく、どういうつもりなんだ……」     「俺に負けて欲しいのか!?」 と、フライパンが焦げて、煙が。 慌ててフライパンに向かう千津子。 力丸はTVを見て呟いた。     「バカ」 回想終了。 2階建てコーポの階段を上がる力丸。 力丸はドアを開けると、千津子が立っていた。 悲しそうに、 千津子 「お疲れ様でした」 力丸  「バカ、本当は嬉しいくせに」 時間の経過。 食事をする二人。何とも言えない重たい雰囲気。 力丸  「このまんま、昨日の約束通りに辞めんのは癪(しゃく)にさわるけどさ」 千津子 「それは気にしないで、あの時は親とそのことで揉めてたから私も変だったの」     「ボクシングは今しか出来ないだから、身体だけ気をつけてくれれば……」     「それに会社の人達だって、応援してくれてるじゃない」 力丸  「負けて初めて分かったけど、みんな冷てぇんだよな。部長なんて特に……」     「会場の出口で俺の顔を見ても、知らんぷりだしョ」 千津子 「あなたに気を遣ってるのよ」 力丸  「まっ、それが勝負の世界の掟ってヤツか」 無垢な顔で食事する千津子に、自分の思いを語った。 力丸  「お前と一緒になったら、他人の人生を背負ったらもっともっと追い詰められて」     「逆にそれがヤル気になってなんだけど……」 食事の途中、箸を置く力丸は思い詰めるように、     「もういい、もうこんな思い二度としたくねぇ〜」 居(い)た堪(たま)れなくなった千津子は立ち上がって、台所で水道を流して手を洗いながら、涙を溢れさせた。 力丸も顔をクシャクシャにして……。 早朝。 字幕  半年後 千津子はエプロン姿で、コーポの階段を箒(ほうき)で掃いていた。(身重、5ヶ月) ロードワーク(朝のランニング)中の一也は、千津子の前で立ち止まった。 一也  「おはよう」 千津子 「おはよ」 一也  「力丸に探してもらった部屋、居心地いいよ。家賃も安くしてもらったし」 千津子 「ここんとこ力丸、帰りが遅くてさぁ残業で」 一也  「やっぱ千津子ちゃんのお腹が大きくなったから、 あいつもヤル気になったんだよ」     「ボクシングで色々あったけど、これでよかったねっ」 千津子 「そっかな」 と、腰に手を当てて納得した。 走り去る一也に、 千津子 「一也、今度の試合頑張ってね」 一也  「ああ、絶対日本チャンピオンになるよ!」 部屋(リビング)の電気が消してある中で、TVがつけられていた。 TV画面は,KO勝ちして両手を挙げた一也の勇姿。 実況  「見事、日本ウエルター級王者に輝きましたっ出雲一也!!」 それをソファから身を乗り出して見る力丸は、真剣な表情で拳を握り締めていた。 力丸  「俺は、一也には絶対負けないッ」     「でも、俺に足りないものは何だろう……?」 その姿を千津子は、寝室のドアの隙間から覗いていた。 何となく不安がよぎる。   翌朝、千津子は(ベランダの)洗濯機のカゴに入れてある、汗で濡れたスウエットパンツ・Tシャツに気付いた。 力丸は普通に朝食を食べている。 千津子 「朝、私に気付かれないように走ってるんだわ」 不安は更に大きくなった。 丸得不動産。 力丸は事務整理中。(あまり似合ってない) 力丸  (俺でもヤル気になれば、事務の仕事だって何だって出来るんだ) 巨乳セクシー系の女子社員(21)が、三田部長(48)にお茶を運んできた。 部長は彼女の張りのある尻を、下からすくい上げるように撫でた。 困ったような顔をする女子社員だが、あからさまに怒れない。(これが現実か?) 部長は、ニコニコしながらお茶を飲んでいる。 その一部始終を見ていた力丸は、ため息。 力丸  「ああ、アレが俺の上司か」     「そして俺の20年後……」 岡部(23)はいきなり立ち上がると、部長の前まで歩いていった。 そして辞表を差し出す。 部長  「君もせっかく入社出来たんだから、 少しは辛抱しなきゃ結局どこへ行っても同じだよ」 岡部  「それは分かってるつもりです」     「でもやっぱり自分の夢を捨て切れませんし」 部長  「君の夢は何か知らんが、とりあえずは仕事しないと食っていけないだろっ?」 岡部  「はい、でも時間的な問題がありますし。バイトの方が自由は利きますから」     「ある意味ここでプロボクサーやってた力丸さんは、尊敬できますね」 力丸はビックリ眼。 お茶目顔で自分を指差した。 部長  「私だって若い頃には色んな夢があったさ。 でも今はそれらを犠牲にして仕事一筋で来て良かったと思っている」     「何だかんだ言ったって、安定に勝る居心地の良さはないし 『部長』という管理(ポス)職(ト)にも就けたしね」     「子供の将来も楽しみだし、老後の生活も保障されている」 力丸  「ここで爺まで我慢しても、納得できる男になって悔いのない人生を送れるとは考えにくい……」 そして立ち上がって、部長を指差した。     「それは部長(アンタ)を見て思うんだよ!!」(退職宣言) ボクシングジム・『拳闘倶楽部』(名門ではないが、そこそこの中堅ジム) バツの悪そうな顔で、ジムのドアを開ける力丸。 力丸  (なんか顔出し辛いよな……)     (負けた後だし、半年振りだしョ) トレーナーの黒岩(32)は力丸を見るなり、 (黒岩は元ヤクザで、それ以前は日本ウエルター級2位) 黒岩  「おお〜っ力丸じゃねぇか」 力丸  「いやーちょっとダイエットでもしようかって」 黒岩  「ガラでもねぇこと言うんじゃねぇよ」 ロッカー室。 着替える力丸は、安心して嬉しそうだ。 力丸  「へへ、やっぱ来て良かったぜっ」 横で見守る黒岩は、     「勝負は負けて得ることもあるし、それで学んで強くなる奴だっている」     「七連敗したあとに日本王者になった選手もいるんだぞ」     「要は内容。負けた原因をよーく考えることだ」     「お前はスピードが無いことが、最大の欠点なんだからな」 と言うと、部屋を後にした。 バンテージを巻いて準備万端の力丸。 力丸  「よーしっ」 そこに、一也が私服で入ってきた。 力丸  「おっチャンピオン」 一也  「お前何しに来たんだよ!!」 と、一喝した。 信じられない力丸に、更に追い討ちをかけた。 一也  「ここは遊びに来る所じゃないんだからなッ」 (今の力丸には分からない、一也なりの優しさ) ジム内。 凄まじい形相でサンドバッグを叩く力丸。 力丸  (俺の気持ちがわかってたまるか、絶対這い上がって見せるからな!!) その横のバッグを負けじと叩く一也。 一也  (千津子ちゃんのためにも、俺はお前をぶっ潰す!)     (それがお前のためなんだ) 黒岩は腕組して二人を見ながら、     「元々ライバルだったこいつらには、それ以外の私情が絡んでる」     「当分、実戦(スパーリング)はやらせん方がいいな」 力丸宅。 食事をする力丸は、考え事をしていた。     (スピードは天性のモノなのか…… 俺がカウンターをとられたのは、パンチのスピードが無いからだけなのか?) 千津子は力丸の前に、パワーリスト(片方・500g)を差し出した。 千津子 「これ使ってみて…」 『拳闘倶楽部』 手首にパワーリストをつけて実戦(スパーリング)をする力丸は、ロープを背にして打たれっ放し。 だが、顔は嬉しそうに笑っていた。 力丸  (スピードの無い俺が更にそれを無くすことで、 やっと分かったもうひとつの欠点…負けた原因が……!!) 一ヶ月後。 相変わらず力丸は、パワーリストをつけてシャドー(ボクシング)をしていた。 力丸  (リストをつけて一ヶ月…… 500gの錘をつけても、以前と同じスピードで打てるようになったぞ) 黒岩  「多少の負荷をつけてもナチュラル時のスピードに戻ろうとする人間の本能が、力丸の肉体を改造させたんだな」 リング上で倒れた自分を見下して笑う、あの鈴木を思い出しながら力丸は決意した。 力丸  「黒岩先生、鈴木ともう一度闘(や)らせてください!!」 後楽園ホール、控え室。 試合用トランクス・Tシャツ姿の力丸は、バンテージを巻く前にリストを外した。 力丸  「この二ヶ月、一度たりとも外さなかったんだ……」 両手を握り締め、漲(みなぎ)る力。 リング上の照明。 の下、中央で睨み合う力丸と鈴木。 余裕の鈴木(180cm)は、力丸(175cm)を見下した。 鈴木  「何度やっても、結果は同じだ」 力丸  「俺は変わったんだ」 ゴング。 足を使いながらアウトボクシングをする鈴木のジャブ。 ガードを固めて覗き見スタイルの力丸。 実況  「第1戦と同じく、ボクサータイプの鈴木のジャブが力丸を寄せつけません」 解説  「鈴木選手は余裕があるから更に、力みが無くてスピード感がありますね」 力丸  「俺は同じ過(あやま)ちは二度と繰り返さない……」 字幕  確かに人生もボクシングも 原因・過程が一緒なら結果も同じだろう     しかし原因が分かって過程を変えることが出来れば…    結果は分からない…… 力丸の右ストレートから、左フック。 鈴木もカウンターの左フックを狙う。 鈴木  (そうら来たぜッ) 互いの左フックが、同時に炸裂した。 しかしガードを固めていた力丸に対し、ガードが甘い鈴木。 鈴木のアゴを、力丸のパンチが捉えた。 字幕  油断している心は、ガードにも隙を生ませた……。 倒れた鈴木に背を向けて、(勝利を確信) 力丸  「俺の最大の欠点は、連打の“つなぎ”が遅いことだった」     「だからカウンターをとられたんだ」 レフェリーに右手を挙げられる力丸。 力丸  「この“一瞬の勝負”が、ボクシングの魅力さ?」 着替え終わって、意気揚々と会場からエレベーターへ向かう力丸と千津子。 力丸  「元々パワーがある俺がスピードも身につけたら、鬼に金棒だ」     「千津子のおかげだよ」 と、後ろから声がした。     「おめでとう力丸!」 声の主は、一也だった。 千津子は、笑顔で手を振って応えた。 力丸は表情を一変させて、     「日本チャンピオンぐらいで天狗になりやがってッ」 と、一也の足元に唾を吐いた。 力丸  「俺はジムを移籍してお前に挑戦してやるから、楽しみにしていろ!!」 千津子の平手打ちが、力丸の頬を叩いた。 千津子を見て怪訝な顔をする力丸。 千津子 「あのパワーリストはねぇ……」 回想シーン。 力丸の部屋を訪ねる一也は、部屋のドアを開けて(力丸に対する)心境の変化を千津子に吐露した。 一也  「力丸、どうやら本気みたいなんだ」     「以前にも増して練習してるし。俺への対抗心も手伝って……」 千津子はため息混じりに、     「一也から見ても本気なら仕方ないよ。 中途半端なら辞めさせようかって悩んでたんだけどね」 一也  「千津子ちゃん達のこと考えたら、俺は賛成できねぇけど」 千津子 「なんかスッキリしちゃった」 と、サバサバした笑顔。 一也  「でも、力丸(アイツ)スピード無いからさぁ・・」 と、パワーリストを取り出した。 一也  「コレで頑張れって励ましてよ」 千津子はそれを受け取るが、戸惑いながら、     「一也、力丸とは同じ階級(クラス)だから言ってみればライバルじゃない。なのに……」 一也  「同じジムだから試合するわけじゃないし、別に関係ないよ」     「それに俺のためにも、強い実戦(スパーリング)パートナーになってもらわないとね」 そして去りかけるが、再び顔だけ振り返って、     「あっそれからこのことは力丸(ヤツ)には言わないで。きっと捻(ひね)くれて使わないから」 回想終了。 愕然とする力丸は、一也の前に跪(ひざまず)いた。 その二人とは無関係の人達の、エレベーターに乗降する光景。 一也も腰を落として、(力丸と同じ目線になって) 一也  「確かに俺達にとって試合に勝つことは大事だ。 だが男の人生、それだけでもねぇだろう」     「二人で同じ夢を叶えようぜッ“世界”という名の――――」 ガッチリ握手を交わす二人。 力丸の思い。 字幕  俺は二度と同じ過ちを繰り返さないことの大切さと     勝ち負け以外の人生における大事な“何か”を ボクシングと親友から学び得た END。